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お悩み「退職金と企業型DCの一時金、同時に受け取っても大丈夫?」
お悩み「1年ずらし」は、どんな人がお得になりやすいの?
この記事では、こういったお悩みが解消できます。
バード【記事を書いた人】
・独立系FPの事務所を運営
・金融ライター実績多数
・上級資格CFP®/FP1級技能士保有
・投資歴10年目
こんにちは、FPのバードです。独立系FP事務所を運営し(4期目)、日本FP協会支部の相談員として4年目を迎えています。各メディアでお金にまつわる記事の執筆・監修業を行い、日本FP協会のFPジャーナル誌にも2度掲載していただいております。
今回は以下のテーマでお送りします。
はじめに補足ですが、今回お伝えする「1年ずらし」とは、必ずしも丸1年(365日)空けるという意味ではありません。「年をまたいで翌年以降に受け取る=別の年に受け取る」という意味になります。なぜかというと、税金は「1月〜12月」の暦年単位で計算されるため、年をまたげば別の年として扱われるからです。この税金のルールを活用した受け取り方となりますのでよろしくお願いします。
まず事例に入る前に、今回のルールを考える前提となる退職所得控除の計算についてのポイントを確認しておきます。
さらにここから、(受け取った金額 − 控除額)× 1/2 という計算をします。控除を超えた部分に対して2分の1をした半額が、税金がかかる対象の金額としてみなされます。
かかる税金は以下の2種類です。
そしてここがポイントですが、退職金と確定拠出年金を同じ年に同時に受け取ると、合算されて控除枠は「勤続・加入期間の長い方」で計算されます。しかし同時に受け取れば、人によっては税負担が大きくなる可能性がありますよね。
先に確定拠出年金をもらって5年空ければ退職金を受け取れる「5年ルール」はあったのですが、2026年1月に5年から10年ルールへ改悪となりまして、それぞれ別で受け取る際に控除を使う抜け道がほぼ塞がれました。それぞれで退職控除が使いにくくなったいま、少しでも税負担を抑えるための現実的な方法について、シミュレーションしながら見ていきます。
先に結論からいうと、1年ずらし(翌年に受け取り)がおすすめの方は「退職金だけで退職所得控除の枠をはみ出しそうな方」です。とくに控除枠をオーバーしてしまう場合には、税負担を抑えられる可能性があります。
前提条件
同じ年に同時で受け取った場合
所得の合計は3,000万円です。このとき長いほうの勤務年数35年が適用されますので、退職所得控除は次のとおりです。
800万円 + 70万円 × (35年 − 20年) = 1,850万円
これをもとに計算すると、
(退職金+DC 3,000万円 − 1,850万円)÷ 2 = 575万円(課税対象)
このケースで同時に受け取る場合、所得税と住民税を合わせると約129.8万円の税金がかかります。同時に受け取ることで退職所得控除の枠をオーバーしてしまい、かなり税金がかかることが分かりました。
1年ズラして受け取った場合(60歳で退職金、61歳で確定拠出年金)
まず60歳時点で退職金を受け取った際の計算は次のとおりです。
(退職金 2,000万円 − 退職所得控除 1,850万円)÷ 2 = 75万円
60歳で受け取った退職金にかかる税金は約11万3,000円です。
ここが今日の重要なポイントです。次に1年後の61歳に確定拠出年金を受け取る場合、前年に退職金をもらったときに退職所得控除の非課税枠はすべて使い切っていますので「確定拠出年金を受け取るときに使える控除枠はもう0円だ」と思いますよね?
しかし、いまの法律ルールでは「退職所得控除が80万円に満たない場合は、80万円とする」という最低保障ルールが存在します。実際に条例には「計算した退職所得控除額が80万円に満たない場合には、退職所得控除額は80万円とされます」と記載されています。受け取る年をずらすことで、この「最低保障80万円」の控除枠がルール上使えることになります。
これを踏まえて、61歳で確定拠出年金を受け取る際の計算式は次のとおりです。
(確定拠出年金 1,000万円 − 80万円 退職所得控除枠)÷ 2 = 460万円
比較結果
1年ズラしたほうが約23.2万円も税金面でお得になるという結果でした。
あくまでも退職所得控除の一般的なルールに基づいた考え方を踏まえた例です。実際の個別具体的な税金額の計算については税理士の方や最寄りの税務署などにご相談ください。
前提条件
同時受取の場合
合算すると2,000万円の所得です。控除額は長い方の勤務年数25年で計算されます。
800万円 + 70万円 × (25年 − 20年) = 1,150万円
(退職金+確定拠出年金)2,000万円 − 1,150万円 ÷ 2 = 425万円
1年ズラした場合(60歳で退職金、1年後に確定拠出年金)
まず退職金 1,500万円にかかる税金です。
(退職金)1,500万円 − 1,150万円 ÷ 2 = 175万円
ここで注目していただきたいのが、同時に受け取る際の所得税率は20%でしたが、今回の175万円の所得に対する適用税率は「5%」で計算され、15%も所得税率が安くなっています。
次に、1年ずらして確定拠出年金をもらうときの計算です。ここで最低保障の80万円が適用されます。
(確定拠出年金)500万円 − 80万円 ÷ 2 = 210万円
比較結果
このケースでも1年ズラして受け取ることで約27万円もお得になりました!
ケース1とケース2の両方に共通しているのは、「退職金単独ですでに退職所得控除の枠を使い切って(オーバーしている)方」は、1年ズラすことで税負担を抑えられる可能性があるという点です。
一方で、1年ずらす場合に注意が必要なケースもあります。
前提条件
同時受取の場合
合計すると2,500万円の退職所得です。退職所得控除は長い方の勤続30年分が適用されます。
800万円 + 70万円 × (30年 − 20年) = 1,500万円
(退職金+確定拠出年金)2,500万円 − 1,500万円 ÷ 2 = 500万円
1年ズラした場合
まず退職金1,000万円については、勤続30年分の退職所得控除(1,500万円)の範囲内に収まるため税金は0円です。
次に、確定拠出年金(1,500万円)で課税される額ですが、このケースでは退職金で控除枠を使い切っていないため、「みなし勤続年数の特例」というルールが適用されます。
① みなし勤続年数の計算
退職金が800万円を超えていますので、
(1,000万円 − 800万円)÷ 70万円 + 20年 = 約22.85年 → 22年(端数は納税者が有利な切り捨て)
「22年分しか控除を使っていない」とみなされます。
② 重複期間の算出
全体の勤続期間は30年で、最初の22年が「みなし期間」となります。
③ 控除額の調整
(確定拠出年金)1,500万円 − 320万円 ÷ 2 = 590万円
比較結果
1年ずらしたことで約27万円損をしてしまう結果になりました。
本来「みなし勤続年数の特例」は、過去に退職金を受け取った際に非課税枠(退職所得控除)を使い切らずに余らせてしまった人への救済措置のようなものです。しかし実際には、今回の事例3のように「退職金を受け取る際に退職所得控除を使い残している場合に、受け取る年をずらせばこのみなし特例が適用されて、かえって税負担が大きくなってしまう」という結果になることもあります。
このみなし特例措置は、納税者が任意で「使う・使わない」を選べるテクニックではなく、一定の条件を満たした場合に自動的に適用される法律上の計算ルールです。
みなし勤続年数の特例が適用される条件
改めてここまでの内容を整理します。1年ズラしのメリットは大きく2つです。
① 所得税率が下がる可能性がある
受け取る年が分かれることで1年あたりの所得が分散され、結果的に「累進課税の税率を下げられる」可能性があります。先ほどの事例では所得税率が20%から5%に15%下がりました。
② 最低80万円の退職所得控除が使える
1年ズラして企業型DCを受け取る際に、重複調整で計算上の枠が0円になったとしても、法律による「最低80万円保障」の控除枠がもらえて、さらにここから「1/2課税」も適用されます。この2つの相乗効果によって、同時に受け取るよりも税負担を大きく抑えられる可能性があります。
ここまでを踏まえた判断目安としては次のとおりです。
【1年ずらし】が有効な可能性が高い人
退職金だけで退職所得の控除枠を使い切る人(はみ出す人)
【同時受取】が有利なケースが多い人
ただし、勤務年数・加入期間・金額によっても変わりますので、事前のシミュレーションがとても重要です。
判断フローチャートも参考にしてみてください。なお退職所得控除の見直しは議論されていますので、このルールは今後変更になる可能性もあります。
ここからは、会社に退職金はないけれど企業型DCのみを運用していて、一時金で受け取ると退職所得控除をはみ出してしまう方向けの裏ワザです。
はじめに結論ですが、一時金で確定拠出年金を受け取る際に税金がかかりそうな場合は、「DCの分割受取+5年後に繰上一時金で受け取る」ことでより税負担を抑えられる可能性があります。
具体例として、確定拠出年金が1,000万円(加入期間20年)あるケースを見てみます。40歳から会社で拠出を開始し、60歳で受け取る場合です。
60歳で一括受取した場合
ここでもう少し税負担を抑えられる受け取り方があります。
分割受取+繰上一時金の戦略
まず、60歳時点の1,000万円を一時金で受け取らず、60歳から65歳までの5年間、分割で受け取ります。ここでは仮に年間50万円ずつ受け取るとします。確定拠出年金やiDeCoを年金形式で受け取る場合、公的年金と同じく「雑所得」として扱われるため、公的年金等控除を活用できます。
年金以外の所得が1,000万円以下の場合、公的年金等控除は次のとおりです。
今回のケースでは年間の受取額は50万円ですので、雑所得は0円 → 税金も0円です。つまり、60歳〜65歳の5年間で合計250万円を非課税で受け取ることができます。
そしてここが今日お伝えしたいもう一つのポイントで、あまり知られていない方法なのですが、年金形式で受け取った5年以降は、残りを一時金として受け取ることが可能です。
この時点で、すでに250万円を非課税で受け取っているため、DC資産の残りは750万円になります。そして65歳で繰上一時金として一括受取する場合、退職所得控除(20年分=800万円)を使うと、750万円 < 800万円 → 税金0円です。
結果として、60歳でDCを一括受取するよりも、公的年金等控除+5年後の繰上一時金による退職所得控除を組み合わせたハイブリッド戦略で、合計1,000万円すべてを税金0円で受け取ることが可能になります。
さらに朗報ですが、2025年の改正により、2025年12月以降は年金収入に対する課税(源泉徴収)の基準が次のように変更されています。
この改正によって、これ未満の年金収入であれば原則所得税はかかりません。例えば今回のケースでは年間50万円ずつ受け取っていますが、仮に年間100万円ずつ受け取ったとしても155万円未満のため、税金は天引きされない形となります。これはありがたいですよね。
ただし注意点もあります。年金形式で受け取る場合、他の所得などがあれば社会保険料や医療費負担割合が増える可能性があります。とくに60歳以降もがっつり働かれる予定の方やそのほかの収入が見込まれる方は、年金受け取りにするとかえって高くなるケースもありますので、この点は慎重な判断が必要です。
ただ、年金形式で受け取っていても、受給開始から5年経てば一括受取もできるという方法を知っておけば、個人的には「必ずしも年金形式での受取が損になる」とは一概には言えないのかなと感じています。
なお、この「年金+繰上一時金」の受取方法ができるかどうかは、加入しているプランによっても異なります。現在加入中の運営管理機関のコールセンター、またはお勤め先の担当部署(人事・労務・総務など)に確認されるのがよろしいかと思います。
さいごにもう一つ、企業型DCを活用した人生100年時代の長生きリスクに備える方法もあります。
たとえば、
こういった方は、企業型DCをiDeCoへ移換する方法もおすすめです。
iDeCoへ移換して新たに最低月5,000円でも掛金を拠出(積立)することで、1年あたり40万円の控除枠を増やすことができます。企業型DCの資金を増やせる可能性がありますし、月5,000円(年間6万円の拠出)で40万円の非課税枠を増やせます。
それぞれの受け取り方の特徴をまとめた比較表です。ゆっくりご覧になられたい場合は、画面を一時停止してご覧ください。
「損得」も大事ですが、退職後のライフプランから逆算して自分にとっての最適な出口戦略を考えることも大事ですよ。遅かれ早かれいずれかの形で受け取り方は決める必要があります。せっかくなら早めの出口戦略を考えて、安心のセカンドライフを先取りしませんか?